福島県知事 内堀雅雄様
スリー・ノンの女たち
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<はじめに>
私たちは3.11福島原発事故後、その実態の悲惨さをしっかりと捉え、反省し、「第2のフクシマを起こさず、原発に依存しない新しい社会」をつくるためにつながっている全国の女たちのネットワークです。
あの世界最大級の原発事故から今日で4年目を迎えました。福島はどれだけ復興したのでしょうか。自治体による「避難解除宣言」「安全キャンペーン」は盛んに行われ帰民・帰還政策や表面的な除染作業は確かに進んでいます。しかし、放射能による環境汚染と生活破壊の痛手は深く、県民のほとんどは立ち直っていません。長期低線量被曝による健康被害への不安を抱えていない県民はいないでしょう。最近はうつ病や自殺者などが増加し、人間破壊の様相をも呈しています。12万人に及ぶ原発難民がふるさとを追われ経済的にも先の見えない苦しい生活を強いられています。
今年2月12日、第18回福島県県民健康調査検討委員会は小児甲状腺がんの子どもは117人で87人は施術を受けていると(昨年12月末まで)発表しました。前回の発表は112人(昨年10月末まで)でした。つまり、2カ月で小児甲状腺がんの子どもが5人増えたということです。この早期の多発傾向はチェルノブイリの時よりも深刻化が懸念されています。外部・内部被曝から子どもたちを守るために学校給食への安全な食物の給与や避難・疎開・移住・保養制度などを早急に確立させるべきです。食品の放射線量を各家庭で簡便に計れる測定器の開発と無料配布が望まれます。また、生涯にわたって健康補償を受けるための「健康手帳」の配布も必要です。子どもがのびのびと自然の中で遊べない環境は異常です。子どもたちに取り返しのきかない「負の遺産」を与えた私たち大人の責任が問われます。子どもを守らない所に未来はありません。
事故の全容はいまだにつかめていません。爆発を起こした1号機から3号機は線量が高くて人が近づけずメルトダウンの状況も不明です。ロボットをつぎ込んでもひっくり返ったりして十分な情報が得られず開発が追い付いていません。また、連日のように事故発生や汚染水漏れがおきています。毎日出る300トンとも言われる汚染水は溜まる一方でそのためのタンクは800基にもなり作っても追い付いていません。最近露呈した高濃度汚染雨水の漏えいは東電が8か月前から知っていながら放置していたことが判明しました。東電の相変わらずの隠ぺい体質に対して、県として毅然と抗議し改善させなければなりません。汚染水対策としての凍土壁やALPS(多核種除去装置)もうまくいかず汚染水はダダ漏れ状態ではないかと懸念されています。
1日7,000人も必要とされる現場労働者の確保とその被曝の問題、作業レベルの低下、労働環境の問題などが山積しています。この1月には2日連続で作業中の死亡事故が起き現場の杜撰な対応が露呈しています。事故現場は綱渡り的状態であり、もはや国・東京電力のレベルではありません。ここに「第2のフクシマ」が起きたら福島県はもちろん日本は壊滅状態になります。福島県はこの緊急事態にもっと強い危機意識をもって発信し、世界からの叡智を求め緊急対策に当たらせるべきです。廃炉へのロードマップこそ必要です。また、もっとキメの細かい防災・避難計画も必要です。チェルノブイリ事故時の人命と健康に関わる最大の失敗は子どもたちにヨウ素剤を飲ませなかったことだと言われています。この教訓を活かせなかった県は猛省し、早急にヨウ素剤の全県全戸事前配布することを求めます。
原発事故現場や除染処理から出る放射性廃棄物の処分も行き詰っています。最終処分場は未定で中間貯蔵施設も30年限定で福島県として受け入れは表明したものの本格的搬入に至っていません。フレコンパックに積みこまれた核のゴミは山奥のみならず市街地の公共地の空き地のあちこちに山積みされ、除染後の一般家庭の敷地内にまで捨て置かれています。野ざらし状態で耐用年数2〜3年の袋も破れたりしています。
国の管轄である8,000ベクレル以上の指定廃棄物の処分にも行き詰まり、国・環境省は減容化のためと称して市町村単位に仮設焼却炉建設をもくろみ、地元住民への説明も了解も不十分なまま事を進めようとしています。福島県内には20カ所24基の建設が何千億円という巨額予算で計画され、建設が急ピッチで進んでいます。鮫川村、二本松などの住民との軋轢があちこちで起きています。焼却処分による排ガスには放射能物質が含まれ、それを吸い込むと内部被曝の恐れのあるものです。気化から吸収されるのは食物としてとるよりも危険と言われており、先進国では禁止されています。チェルノブイリでも行われませんでした。国・環境省はバグフィルターで99.9%除去できると豪語していますが実証データはなく、鮫川村の実証炉結果からもせいぜい60〜70%だろうと推測されています。これはまさに生活圏内に建てられる“ミニ原発”建設と同じようなものであり、放射能による二次汚染とも言えます。放射能に影響されやすい子どもたちの健康にとって新たな大気汚染と言っても過言ではないでしょう。
福島県は「福島県環境創造センター」なるものを三春町と南相馬市の2ヶ所に200億円もの予算で建設計画を発表し、三春町の方は来春、開設予定です。これは県として事故後初めての放射能に関する情報・研究施設です。原発事故と放射能に対する県としての姿勢が問われます。中でも三春町に建設される交流棟には県内の小学5年生は全員来館させると言っています。その展示教育内容が「原発事故の悲惨さ」「原発と地震の密接な関係」「放射能汚染の実態」がしっかり伝えられるのかが危惧されます。「過酷な原発事故を受けてそれをどう捉え、どう乗り越えて、生きる希望につなげるか」はとても重要です。放射能は野に放たれたら手に負えず、全てを奪ってしまう恐ろしさをしっかり学ばせることが望まれます。そこをあいまいにして放射能は怖くないかのような「あらたな安全教育」にならないようにすることが求められます。原発を推進させてきたIAEA(国際原子力機関)やJAEA(日本原子力研究開発機構)の居場所が確保されていることを懸念するのは杞憂でしょうか。こどもの明るい健康な未来のためには原子力エネルギーは不要です。県の方針である「全基廃炉」と「再生可能エネルギーへのシフト転換」につながるものであるべきです。
つい先日、「復興予算消化率低迷」との報道がなされました。全国での消化率は40%程度で本県でも52%程度とのことです。しかし、消化率アップをただ上げることは税金の無駄使いになりかねません。真の費用対効果が問われるべきでしょう。会津に建設した復興住宅は入居率が低く問題になっています。これは先に建設ありきで住民の希望を無視した執行結果と言えます。ゼネコンビジネスを潤すだけに終わってはなりません。先に述べた核のゴミ焼却炉は使用年数が4~5年程度で取り壊すとのことです。
また、帰還者には手厚く、自主避難者には補助金打ち切りなどの非情な対応も見られます。我が子の健康を守りたい一心で家族分断や離婚などに追い込まれている母子避難者や生活保護家庭や二重ローンに苦しんでいる家庭への受給などは不十分です。苦しんでいる県民に補助が行き渡ってこその補助金です。新規事業や町おこしには若い人や女性の意見も十分取り入れて行うべきです。避難・疎開・保養・移住・定住などどんな選択肢を取ろうとも県民自身の意思と選択そして希望がいっそう尊ばれ、県と県民が一体となった再生プランが作られて欲しいものです。県民一人一人が生きる希望をもてるように血の通った差別のない補償体制にするべきです。
原子力規制委員会は昨年12月、川内原発に続いて高浜原発に「新基準適合」判断を示しました。福島県の実態からは考えられず、福島の犠牲を無視し、置き去りにするものです。福島原発事故は進行中である事実、毎日増え続ける放射能汚染水・廃棄物の処分などお手上げ状態である現実があります。放射能汚染は環境破壊、健康破壊、生活破壊、人間破壊、自治体消滅、国土消滅などの現象を生みだしています。この状態を考えたら再稼働などあり得ません。“原発は全てを奪い、人類と核は共存できない!”のです。
今こそ、世界の安全と平和のためにも福島県知事として明確な「反対意見」を発信すべきです。
以上のことを踏まえ下記のことを要請します。
- 県は、原子力規制委員会が川内原発に続いて高浜原発にも出された「新規制基準適合」に対して、県として明確な異議を正式に文書で発信すること。
- 原発事故現場の事故終息に向けての緊急対策を世界から収集し、まずは汚染水対策のためのより効果的な方法をとること。ロボット研究開発の促進を図ること。
- 現場労働者のための労働環境改善と被曝労働の軽減化を図ること。
- 生活圏の一層の環境破壊につながるゴミ焼却炉建設計画は取りやめること。
- 「第2のフクシマ」に備えての避難・防災・放射能対策をたてること。ヨウ素剤は県内全戸への事前配布を行うこと。
- 県民の健康調査のデーターを県民のために活かし、県民の健康被害払拭に努め、生涯医療保障を行うこと。放射能の影響を受けやすい子どもの健康を守るためにまずは「保養体制」を確立すること。「健康手帳」(仮称)の配布や簡便で正確な食料品放射能測定機を開発し、各戸に配布すること。
- 避難地区に拙速な「解除宣言」を出して賠償を打ち切ったりせず、生活再建に直結する賠償や補償を確立すること。仮設住宅から1日も早く脱出できるように県民の希望を活かした再建住宅の建設や街づくりを急ぐこと。
- 「福島県環境創造センター」交流棟の教育展示は「新たな安全神話」につながらないように展示内容を考慮すること。
- 「再生可能エネルギー」を安全に具体的に促進すること。
- 以上の施策に要する費用は県内被災者の生活再建に直結するものであり、規制予算枠にとらわれず、国の復興予算手当予算をここにこそ活かすように強く要求すること。以上